食と色について
2023年10月20日(金)
木々が紅葉し、金色の稲穂が頭を垂れ、軒先の橙色の柿が食べ頃を迎えるなど、さまざまな色を感じられる季節になりました。
ホクホクのさつまいも、たわわなブドウ、みずみずしいホウレン草など旬の品物が並ぶスーパーの陳列を見るだけで食欲が刺激されます。
今回は食べ物の見た目に関わる色と味やおいしさへの影響、健康効果について考えてみたいと思います。
■色と味
色は目で受け取る感覚ですが、寒色、暖色という言葉があるように、温度という別の感覚とも結びついています。
では、味を感じる感覚との関係はあるのでしょうか。
下の絵を見てください。4つの器の中にそれぞれ黄・桃・青・茶の丸が入っていますが、これらはどんな味だと予想しますか。
黄色い丸を「酸っぱそう」、茶色い丸を「苦そう」と思ったかもしれません。
人によっては、レモンやチョコレートなど特定の食べ物を思い浮かべたかもしれませんが、
黄は酸味、桃は甘味、青は塩味、茶は苦味など、時代や文化を超えて、色が味を想起させる共通の感覚はあるようです。
私たちの常識では、味を感じるのは舌で、目で味は感じられないと思っています。
しかし実際は、食べていないものでも味を想像したり感じたりできる。それは何かを食べる前段階で、
脳が色と味を感じているからのようです。最初の味は目で感じるのですね。
■味と見た目(色)
では、色で味を感じるならば、実際に飲食する物の色が変わり見た目が変化すると、感じる味も変わるのでしょうか。
ボルドー大学での実験においては、白ワインに着色料を入れ、赤ワインに見えるようにしてテイスティングした場合、
赤ワインの時に使われる表現が多くなったというのです。(1)
さらに、横浜国立大学の岡嶋克典教授による実験では、見た目自体を変化させるAR(拡張現実感)技術によって、
マグロの握り寿司をサーモンの握り寿司に見えるようにした場合、
実際はマグロを食べていてもサーモンの味に感じたというのです。(2)(3)(4)
私たちは食べ物の色など見た目を手がかりに、ほぼ無意識にその味を予想しています。
上記の例でいえば、「これは赤ワインだろう」、「これはサーモンだろう」と思っているのです。
そして、そのような心構えで食べ物を口にすると、実際は違うものだとしても、予想に引っ張られてしまい、味わいも変わってしまうのです。
もちろん比較的味が似ているもの同士であるという前提はありますが、見た目の情報は味より優位に働いていることがわかります。
色を使えば味わいを操作することもできそうですね。
■色とおいしさ
今まで見て来たとおり、色が味に及ぼす影響は、私たちが思っている以上に大きいようです。
そして、色はおいしさにも関わっていることは想像にたやすいのではないかと思います。
下にあるのは、鮮やかな野菜の写真と、きめ細かな料理のイラストです。
比較のため白黒にしてみましたが、カラーでないものはあまりおいしそうに見えないのではないでしょうか。
もちろん実際のおいしさ(味わい)というのは色だけでなく、形やつやなど他の見た目も関わりますし、
味、香り、歯ごたえ、音など様々な要素が混ざり合っている感覚です。
さらに、お腹の空き具合、食嗜好、過去の記憶、誰と食べるか、どこで食べるかなど、
食べる人の状態や周りの環境にも影響され、個人差があります。
しかしながら、京都大学の山本洋紀教授の実験では、カラーの料理を見たときにだけ強く反応する脳の部分があったとのこと。
そしてそれは、「おいしい」に反応したのと同じ場所だったという結果もでており、
食べ物の色が「おいしい」にも関連しているのは、脳科学的にも確かなようです。(5) まさに目で味わっているのですね。
■食材の色と効能
食べ物のなかで、色彩豊かなものと言えば、野菜や果物を思い浮かべます。野菜や果物は彩りだけでなく、
栄養面でも重要な働きをしています。
私たちは普段、紫外線を浴びたり、呼吸によって酸素を常に取り込んでいるため、体内で活性酸素という物質が発生しています。
活性酸素が増えすぎてしまうと細胞にダメージを与えて、体の老化が早まり、しわやシミ、多くの病気のきっかけになることが知られています。
この活性酸素の働きを抑えてくれるのが、野菜や果物の色素である抗酸化物質です。
動くことが出来ない植物が、紫外線から身を守るために作り出す物質が、私たちの健康にも役立ってくれます。
たくさんの種類がありますが、代表的なものとそれを多く含む食材、主な働きを紹介します。
●緑(クロロフィル):ほうれん草、ブロッコリーなど
コレステロール値の上昇を抑える。がん予防に効果があるとされる。
●紫(アントシアニン):なす、ブルーベリーなど
目の機能を向上させる。血圧の上昇を抑える。肝機能を改善する。
●赤(リコピン):トマト、すいかなど
メラニンの生成を抑える。大腸がんや胃がんなど、がん予防に効果があるとされる。
●黄(β-カロテン):にんじん、かぼちゃなど
粘膜を丈夫にする。のどや肺などのがん予防に効果があるとされる。
●オレンジ(β-クリプトキサンチン):みかんなど
粘膜を強化する。大腸がんや皮膚がんなど、がん予防に効果があるとされる。
■食事に色を
忙しい毎日を送っていると、食べることが、単に空腹を満たすだけのものになりがちです。
その毎日の食事に色を加えることで、味わいも変化しておいしさもアップ。そして、抗酸化物質である色素が病気予防につながり体にもうれしい。
さらには、いろいろな食材の色を組み合わせることで、自然と栄養バランスが整います。
惣菜の茶色いコロッケの横にミニトマトの赤を添える。カットレタスにベビーリーフの濃い緑を加えてみる。
そんなちょっとした色を増やして、食事を目でも楽しむことができるといいですね。
株式会社メディヴァ 管理栄養士
【引用・参考文献】
(1)Morrot, G., Brochet, F.& Dubourdieu, D., “The Color of odors,” Brain and Language, 2001, 79, 309-320.
(2)土肥義則.“なぜ人は「マグロ」を食べても「サーモン」に感じるのか大学教授が分析”.
ITmediaビジネスオンライン.2016-06-08
→https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1606/08/news012_6.html
(3)萩原一.“脳は味覚より視覚の情報を優先する「クロスモダリティ効果」とは何か”.
ハーバード・ビジネス・レビュー. 2016-01-29.
→https://dhbr.diamond.jp/articles/-/3911,(2023-09-16)
(4)岡嶋克典. 視覚のクロスモーダル効果の可視化~食品の見た目が食感・味覚に与える影響の定量化~.
オレオサイエンス,2020,20巻,11号,p.493-498.
(5)“おいしい色は脳で感じている”.料理王国食の未来が見えるウェブマガジン.2019-11-7
→https://cuisine-kingdom.com/nou-oishii, (2023-09-16)
・.色は魔法のふりかけ.美術の窓.2022,41(1),p.44-45.
・大沼卓也.目で味わうことの心理学.嗜好品文化研究,2019,第4号,p.122-130
・チャールズ・スペンス.「おいしさ」の錯覚 最新科学でわかった、美味の真実.角川書店,2018,370p.
・吉田企世子監修.色の野菜の栄養辞典.エクスナレッジ,2017,221p.
・佐藤成美.「おいしさ」の科学 素材の秘密・味わいを生み出す技術.講談社,2018,234p.
・久野愛.視覚化する味覚.岩波新書,2021,204p.
・ “抗酸化物質”.厚生労働省e-ヘルスネット.
→https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-009.html,(2023-09-16)
・高橋将記.“活性酸素と酸化ストレス”.厚生労働省e-ヘルスネット.
→https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-04-003.html,(2023-09-16)
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