MEDIVA健康コラム

日本産業衛生学会への演題投稿“初チャレンジ”を振り返ってみた

2023年10月01日(日)

衛生学会の演題“初チャレンジ”を振り返ってみた

▲日本産業衛生学会

メディヴァの仕事のあり方と演題投稿

メディヴァでは、クライアント企業様へオーダーメイドの健康支援を行っています。

そのため、メディヴァの保健師は産業保健の基本をしっかりおさえつつ、
企業様ごとの強みを活かし、弱みやお困りごとを補う最適な健康管理の実施や
施策提案を行うことを常に心がけています。

そして、中長期的なビジョンをもって、取り組んでおりますので、
定期的に実施したことに対する評価を行い、
その評価をもとにクライアント企業様と共に健康づくりをステップアップさせ、
好循環サイクルとなるように支援しています。

今回、私が学会の演題発表へ至った背景もその一環と言えます。演題発表を通して、
自分たちの取り組みが、企業様(組織)にとって、どのような効果があったかを調査し、
評価することで、成果と課題に向き合うことになります。

そして、まだ研究が少ない分野であれば、
同様の取り組みをされる全国の産業保健職に向けての一助となり、
産業保健全体の質の向上につながると考えています。

このような熱意を持ちながら演題発表に向けて、臨みましたが、
はじめての演題投稿ということで、右も左もわからない状態でした。
チームメンバーからお力添えをいただき、なんとか無事に終えることができました。

今回は、メディヴァ保健師の1人である私が2023年5月に開催された
第96回日本産業衛生学会へ演題を初投稿したプロセスを振り返り、
これから演題発表を考えるみなさまにご参考にしていただけたらと思います。

演題発表するまでのプロセス

~演題発表の準備は最低でも学会開催6カ月前から~

1. 【事前準備】日本産業衛生学会の学会員へ登録をする

日本産業衛生学会の場合、筆頭発表者(1番手)として演題投稿する際は、学会員の登録と当年度の年会費を納める必要があります。登録には学会員である方からの紹介が必要です。
日本産業衛生学会は、産業衛生に関して日本で最大の学術団体です。
産業保健に関する仕事をされている方や同業種をあたれば、学会員であることが多く、
登録は容易であると思います。私は、同僚の保健師から紹介をしてもらいました。

学会へ登録すると、学会誌の定期送付、地方会や研究会の存在を知るきっかけとなり、
自己研鑚や新しい出会いにつながります。

開催予定の学会の演題の募集、発表の詳細(方法、規定、提出期限など)は
学会ホームページで掲載されます。提出期限の延長のお知らせもあるので、
こまめに確認するとよいでしょう。


2.【学会開催6カ月前】データ整理と内容の検討、同時にすでに発表されている文献をリサーチし、演題を決める

今回の演題募集は、学会開催の6カ月前(11月)に周知されました。同時に、演題募集の締切日が公表されます。今回の締切日は、学会の約5カ月前(12月)でした。締切日までに抄録を提出し、演題の採択を受けなければなりません。
抄録を作成するには、発表テーマや内容を決めるために、
集めたデータや取り組みから何が言えるかを検討します。
同時に、類似テーマやカテゴリーで、
すでに発表されている文献やその中で明らかになっていることなどを可能な限り調べ、
先行研究や文献把握をする作業が必要です。参考になり得る文献は、
カテゴリー分けをして、保存しておきます。
今回は、主にオンラインではJ-Stage、CiNiiを利用し、紙面では過去の学会誌を確認しました。
それらを踏まえて、自らの発表するテーマや内容を考えていきました。


3.【学会開催5カ月前】抄録作成

提出する学会ごとに規定は異なりますので、規定に準じて作成します。
今回は【背景・目的】【方法】【結果】【考察】を1400文字以内で作成しました。
限られた文字数でいかに発表の要点をまとめられるかがポイントになります。

私の演題テーマは「複数の診療所や介護グループをもつ医療法人で遠隔産業保健体制の
整備がなされた前後でそれぞれの施設の健康管理担当者の職場の健康管理への意識変化があったか」
を確認するアンケート調査を実施しました。その結果、「導入時に課題を可視化したこと」
に高い利用価値を感じられ、休復職、不調者への対応では、
産業保健職との連携があった担当者ほど、対応を重要と感じていることが推察されました。
また、オンライン健康管理室には、人事労務に関する連携やアドバイスを期待する意見が
多いことがわかりました。それを以下のように構造化して、述べました。

・【背景・目的】取り組みの背景、意義、ねらい

・【方法】アンケートの内容

・【結果】アンケートの結果

・【考察】結果からの考察、推察できること、今後の課題、汎用性があり共有できることなど

作成後は、チームメンバーへ査読をお願いしました。目的や根拠、その説明が適切に述べられているか、
ご意見をいただき、学術的に通用する文章表現について助言をいただきました。


4.【学会開催1~2カ月前】発表スライド作成

開催3カ月前、採択の通知がきました。同時に発表するスライドの提出の締切日が公表されます。
学会ごとに、発表形式は現地発表、オンライン発表、ポスター発表など様々あり、規定も異なります。
今回は、オンデマンド発表(発表音声あり)を選択しました。パワーポイントにてスライドを作成し、
発表内容の音声をつけて、オンラインにて提出する流れでした。 スライドの枚数制限はないですが、
8分以内の時間制限がありました。締め切りまで1カ月程度(2022年4月締切り)でした。
抄録の内容に沿い、スライドや原稿を作成し、録音作業を行いました。学会2~3週間程前に提出し、
終了しました。


5.【学会開催後】質疑応答や同僚への報告

オンデマンド発表後、気になった発表や意見を交えたい発表には発表者へ質問や意見を送ることができます。自分の発表に質問がきたら、
簡潔に、かつ丁寧にお答えします。
また、当社では、チーム内で学会発表報告会の時間を設けて、同僚たちと自己研鑽の機会を共有するようにしています。

演題発表をする中で1番大変だったこと

~論じるということの難しさ「抄録作成」に苦戦~

抄録は、発表にするテーマに関しての背景、検証方法、結果、考察、まとめ、それらをコンパクトにまとめたものになりますが、
内容を端的にまとめることに加え、学術的な言い回しや語彙力が求められます。発表時のスライド作成も、
抄録内容を軸に作っていくため、抄録は演題の「要」と言えます。
ここに発表者の「伝えたいこと」ことが詰まっているといっても過言ではありません。ロジカルに、わかりやすく、述べられればいいのですが、
慣れないうちは、時間もかかりますし、表現もどこか学生時代のレポートのような感じでした。
研究論文作成や演題提出の経験がある上司や産業医、先輩の力を借りて、進めるとよいと思います。
私も抄録やスライドの作成において、同じ業務に取り組む産業医、保健師からたくさんご指導、助言をいただきました。
チームメンバーのサポートがあったからこそ、できたと言えます。

演題発表を通じての学びと気づき

1)自身が行っている産業保健における取り組みについて、ねらいをもって行い、評価する意識が定着します。また、今後の課題や取り組むべきことが明確になり、日々の業務の活力になります。

2)投稿の準備の過程で文献をリサーチすると、
興味深い研究結果やすでに知っていることでもエビデンスを確認する機会にもなり、
情報と知識のインプットが高まります。
一方で、まだ発表されていない研究分野も多いことがわかります。
私たち産業保健職が取り組んでいることでも、
まだまだ表に出せていないことがあると気づかされます。

3)学会で発表される演題を聴講することで、新しい気付きや励みにつながります。
産業保健は、さまざまな職種との連携で成り立っています。
日本産業衛生学会では、産業医、産業保健師といっても、教育・行政・企業と、
さまざまな立場からの研究が発表されています。
さらに職種では、歯科医、労働衛生コンサルタント、オキュペイショナル・ハイジニスト、
人事労務や企業の健康推進責任者をされている方なども参加され、
それぞれの視点から発表されています。他職種からの意見を聴くことは、
視野が広がることにつながります。法令の改正や社会課題を受けて、
産業保健の課題も時とともに変わります。
学会に参加すると今の課題やそれに対する取り組みを知ることができます。
また、私は、オンライン健康管理室の業務に携わっていますので、電話、リモート、
オンラインイベント、動画などを用いて効果的なアプローチや改善例を見聞きすると、
取り組みの評価方法や自分が取り組もうとしていることも同じ効果が期待できそうだ、
など業務を発展的に考えることができるところが面白いですね。

産業保健においては、2000年に日本産業衛生学会で産業保健専門職の倫理指針が明文化され、
2015年には産業保健看護職の専門家制度が設けられました。
産業保健師に高い専門性と実践力が期待されている中で、業務に対して創意工夫、
研究意識をもって取り組むことはこれからさらに重要な視点となります。

私たちは、これからもメディヴァの産業保健の発展だけでなく、
産業保健業界の発展のために、引き続き産業保健の価値を追求していきます。